コミュニティナースと病院看護師の2つの違い-株式会社コミュニティケアの歌田さんの事例と共に-第3回プロジェクトリポート
こんにちは、コミュニティナース育成プロジェクト事務局の齋藤です。
第1回ではコミュニティナースとは何かという理論的な話を、第2回ではその理論をナースではない人が実践するとどうなるのかという事例を学びました。
第3回では、実際に島根県雲南市でコミュニティナースとして活動している方のお話から、具体的に病院の看護師とコミュニティナースはどう違うのかを学びました。
コミュニティナースの歌田さん
今回話しをしてくれたのは、島根県雲南市でコミュニティナースとして活動している歌田ちひろさん(写真右)。株式会社コミュニティケアの代表取締役でもあります。
歌田さん自身の体験を交えながら、コミュニティナースと病院勤務の看護師の違いについて話していただきました。
地域ではトンガリのあるナースの方が活躍できる
コミュニティナースにとって大切なのは、自分の特徴であるトンガリ(=強み)自覚することです。
なぜなら、病院に来る人は基本的に病気や怪我をしている人、つまり臨床看護の対象者という共通点があります。
しかし、コミュニティナースが活動する地域には、いずれ地域に帰るそれらの患者さんの他に、多様な対象者がいます。
多様な人々のケアをするためには、コミュニティナース自身の多様性が必要になります。そのためコミュニティナースは、自分のトンガリを自覚する必要があります。
そしてそのトンガリを磨くために、フィールドに出て実践すること。さらにトンガリに基づいて自分が活動する領域を選ぶことが大切です。
幸せなナースが、人を幸せにするケアを”継続する”ことができる
歌田さんにとって、地域の中核病院での経験がコミュニティナースとしてどうあるべきかを考える大きなきっかけになったそうです。
地域の中核病院では医療人材が基本的に不足しています。そのため多くの臨床経験を積むことができ、ジェネラルナースとして看護のスキルを鍛えることができます。
しかし成長できる環境であることは、裏を返せばハードな環境であるとも言えます。そのため多くのスタッフが疲弊して離れていってしまっていたようです。
それだけでなく、目の前にいる患者のおじいちゃんやおばあちゃんに対して心のケアをすることが大切なのは理解しているのですが、なかなか実行に移せない看護師を歌田さんは多く見てきました。
その時に歌田さんが気づいたのが、
人が不幸になると、ケアの質も悪くなっていく
ということでした。
心のケアまでするために、自分自身が満たされた状態になる
コミュニティナースが目指すのは、
1. トンガリ(=強み)を自覚し、地域の多様な人のケアができるナース
2. 地域の人を継続的にケアするために、ナース自身も幸せな状態で働けること
この2つを両立できる状態です。
ナース自身の幸せのために、活動の軸を決める
トンガリを持つ方法は先ほど紹介しました。もう1つの、ナース自身も幸せな状態で働くために重要な事は、自分の活動の軸を決めることです。
歌田さんの活動の軸は「自分がいらない存在だと感じてしまう人を一人でも減らしたい」という想いにあります。
それは歌田さんの看護師になった原点が、子どもの頃の大好きだったおばさんが入院した時の体験にあるからです。
歌田さんが入院したおばさんのお見舞いに行った時のことです。おばさんのことが大好きで、よく遊びに行っていた歌田さん。入院しているおばさんに花を持っていく時には
「よく来たね」
と言ってもらえるとばかり思っていました。しかし実際におばさんにあった時に言われたのは、
「入院しちゃってごめんね」
という謝罪の言葉でした。
もちろん歌田さんはおばさんの事を悪いとは少しも思っていませんでした。この経験の後、歌田さんはマザー・テレサのこんな言葉に出会います。
「今日の最大の病は、自分がいらない存在だと感じることである」
身体だけじゃなく心も苦しい、自分は必要とされていないと思ってしまう状態もまた、病であるという意味だと歌田さんは理解しました。
歌田さんが看護師を目指した原体験は、この「自分がいらない存在だと感じてしまう人」を一人でも減らしたいという想いにあります。
活動の軸を決めるべき2つの理由
コミュニティナースが活動の軸を定めておくべき理由は2つあります。
1つは、自分のやりたいことや実現したい状態に向かって進んでいる状態でないと、ナース自身が幸せになれないからです。それは職業人としての自己実現でもありますし、個人の人生としての状態でもあります。
もう1つの理由は、コミュニティナースの活動領域にあります。地域に根ざして活動するコミュニティナースは、仕事とプライベートの区別が曖昧になります。そのため、コミュニティナースの活動を仕事と割り切ることが難しいのが特徴です。
つまり活動の軸を定めておくことは、言い方を変えれば自分が活動する領域を決めるということは、コミュニティナース自身が幸せな状態を維持するために必要なことなのです。
看護師のキャリアの選択肢のひとつとしてのコミュニティナース
島根県雲南市で歌田さんと一緒に活動しているコミュニティナースの矢田さんは、コミュニティナースはあくまで看護師のキャリアの幅を広げるものであるのがいい、と言っています。
つまり、病院で働く看護師よりもコミュニティナースが優れているわけではないし、劣っている訳でもない、ということです。
ただコミュニティナースは病院の外の地域や生活の中で活動するという性質があるため
「コミュニティナース自身の多様性」や、
「コミュニティナースという生き方を続けられる状態である」
ことが大切になってきます。
次回、第4回では具体的にコミュニティナースが地域に”場”をつくるために必要な知識や、事例について学ぶ予定です!